税務署のAI活用が進むと、会社の税務対応はどう変わるのでしょうか。2026年9月の国税システム更改を踏まえ、経営者・調査担当者・税理士のそれぞれの立場から、押さえておきたい点を整理します。
従来との変更点
国税庁は、2026年9月24日に国税システムを更改したと公表しています。一部の申告書や納付書の様式変更、通知等への13桁の「お問い合わせ番号」の印字など、納税者側にも変更が生じています。[1]
一方、AIによる調査対象の選定は、今回初めて始まったものではありません。2024年12月の国税審議会でも、AIの予測モデルによる分析結果と、独自に収集した資料情報を職員が併せて検討し、申告漏れの可能性が高い納税者を抽出する取組が説明されています。[2]
今回の次世代システム「KSK2」は、調査対象の選定だけに使う専用AIではなく、税務行政を支える基盤の刷新です。国税庁が示した開発コンセプトを整理すると、次のようになります。[3]
| 観点 | 従来の基盤・事務 | KSK2の方向性 |
|---|---|---|
| 事務処理 | 紙の帳票を介する処理 | 電子データを中心とする処理 |
| システム構成 | 税目別のデータベース・アプリケーション | 統合による縦割りの解消 |
| コンピューター | 独自OSの大型コンピューター中心 | 汎用的なOSを使うオープンシステム |
つまり、従来からのAI・データ分析の活用に加え、それを支える情報基盤と事務処理の仕組みが変わったと捉えるのが適切です。具体的な選定基準や、更改によって調査精度がどれだけ改善したかまでは、ここで参照した公表資料からは確認できません。
経営者にとっては、
数字の背景を説明できることが大切
国税庁の2025年12月公表資料では、AIが調査必要度や想定される不正パターンを示した後、申告書などの情報を検討し、調査官が調査実施の要否を最終的に判断するとされています。AIの判定が、そのまま不正の認定や課税になるわけではありません。[4]
この仕組みを踏まえると、企業が取り組みたいのは、数字を見栄えよく整えることではなく、数字と取引実態を結び付けて説明できる状態にすることです。例えば、外注費が大きく増えた場合でも、受注増加による外部委託なのか、人員不足による一時的な対応なのかで、その意味は違います。
実務で準備しておきたいこと
- 増減の理由:売上・粗利益率・外注費などの大きな変動について、契約や事業上の事情を記録する。
- 取引の裏付け:請求書だけでなく、契約内容、成果物、納品・検収、支払の記録を関連付ける。
- 会社と個人の区分:役員との資金のやり取りや、私的支出との区分を明確にする。
これらは、公表されたAIの判定項目を列挙したものではなく、当事務所が考える日常の税務管理のポイントです。正当な理由のある変動まで避ける必要はありません。また、適正に申告している企業でも、調査の対象となることはあります。
電子データの扱いも実務上の変化です。2026年7月改訂の国税庁FAQには、電磁的記録の提出方法として、e-Tax、オンラインストレージサービス、メールなどが示されています。会計データと根拠資料を必要に応じて取り出せるようにし、提出方法や範囲は担当税理士と確認するとよいでしょう。[5]
税務署側の視点がどう変わるか
KSK2については、電子決裁や調査先など庁舎外からのシステム利用による効率化が説明されています。また、別の取組である内部事務のセンター化では、効率化によって確保した事務量を、納税者サービスや調査・滞納整理などに振り向ける方針が示されています。[6][7]
この方向性からは、税務署職員の役割が、情報を探して整理する作業だけでなく、分析結果の意味を読み取り、現実の取引を確かめる判断へ一層向かうと考えられます。データ上の違和感が、不正によるものか、事業の変化によるものかを見分けるには、業界や取引に関する知識が引き続き必要です。これは、公表された方針を踏まえた当事務所の見方です。
これからの税理士との連携のあり方
経営者が把握している事業の事情と、税理士が確認する会計数値には、情報の差があります。日頃の税務管理では、この差を埋める連携が大切です。企業側からは、決算書だけでは伝わらない取引の背景を共有し、判断が必要な事項を早めに相談することが有効と考えます。
① 数字の変化に加え、事業上の背景を共有する
新規事業の開始、主要取引先の変更、仕入価格の上昇、外部委託への切替えなどは、売上や利益率、費用の構成に影響します。こうした変化があったときは、資料の提出に加えて、その理由を税理士に伝えましょう。会計数値と事業の実態を結び付けることで、確認すべき論点を整理しやすくなります。
② 重要な取引は、実行前から相談する
不動産の取得、多額の設備投資、役員や関連企業との取引などは、契約や支払を終えてからでは選択肢が限られる場合があります。検討段階で取引の目的や条件を共有し、税務上の取扱いと、判断の裏付けとして残す資料を確認しておくことが大切です。
③ 資料の管理と、調査時の対応をすり合わせる
契約書や成果物を企業側で管理し、税理士には請求書と会計データだけを渡している場合もあります。どの資料を誰が保管し、必要なときにどう取り出すかを確認しましょう。併せて、税務署から連絡があった場合の窓口や、税理士に依頼する対応の範囲・費用を把握しておくと、連絡後の対応を進めやすくなります。
企業の取引実態を最もよく知る経営者と、税務上の判断を担う税理士が、それぞれの情報を持ち寄ることが連携の基本です。申告時だけでなく、事業に変化があったときに相談できる関係を築くことが、説明の裏付けを整える土台になります。
日常の確認事項
まず確認したい4つのこと
- ✓大きな数値の増減について、事業上の理由を説明できる
- ✓重要な取引について、請求書以外の裏付けも確認できる
- ✓会計データと関連資料を必要なときに取り出せる
- ✓判断に迷う取引を、申告前に税理士と相談している
参照した公的資料
確認日:2026年10月17日。制度・取組に関する記述は以下の公的資料に基づき、実務上の提案や見通しは当事務所の考え方として記載しています。
- 国税庁「国税システムの更改について」更改日・様式・お問い合わせ番号等の変更
- 国税庁「第27回 国税審議会 議事録」(2024年12月3日)更改以前からのAI予測モデル・職員による検討
- 国税庁レポート2025「行政サービスのデジタル化の推進」KSK2の開発コンセプト
- 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(2025年12月)資料内4ページ:AI活用と調査実施の最終判断の仕組み
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問5:電子データの提示・提出
- 国税庁「第29回 国税審議会 議事録」(2025年12月8日)資料19・20ページの説明:電子決裁・庁舎外利用・内部事務の効率化
- 国税庁レポート2025「内部事務のセンター化」効率化した事務量の活用方針
本稿は一般的な情報提供を目的としています。個別の取引や税務調査への対応は、具体的な事情に応じて検討する必要があります。